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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)154号 判決

原告

ザ・バートン・コーポレーション

代表者

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

【C】

【D】

被告

代表者代表取締役

【E】

訴訟代理人弁護士

岩出誠

外山勝浩

中村博

村林俊行

小林昌弘

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成9年審判第1428号事件について、平成11年1月5日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文1、2項と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、「BURTON」の欧文字と「バートン」の片仮名文字を上下2段に書してなり、平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表第21類「装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉及びその模造品、造花、化粧用具」を指定商品とする登録第1229927号商標(昭和48年1月12日登録出願、昭和50年11月13日出願公告、昭和51年11月1日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。

被告は、平成9年2月3日、原告を審判被請求人として、本件商標の指定商品中「ボタン類」について、不使用に基づく登録取消しの審判の請求をし、その予告登録が同年4月9日になされた。

特許庁は、同請求を平成9年審判第1428号事件として審理したうえ、平成11年1月5日、「登録第1229927号商標の指定商品中『ボタン類』についてはその登録は、取り消す。」との審決をし、その謄本は同年2月4日に原告に送達された。

2  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、平成8年12月2日に「マサ名古屋」において撮影されたものであるとされる審決乙第1号証の1、2(本訴甲第7号証添付)の写真に示された商品は、取消請求に係る商品「ボタン類」に含まれるスナップボタン(以下、審決乙第1号証の1、2に示されたスナップボタンを「本件スナップボタン」という。)であると認められるが、本件スナップボタンに表示された商標(以下「使用商標」という。)は、本件商標と外観上著しく相違するものであって、その使用を本件商標の使用ということができず、また、該商品が、本件審判請求の予告登録前3年以内に、被請求人(原告)とマサ名古屋との間で実際に取引がなされたとの事実を認めるに足りる取引書類等の提出がなく、被請求人は、本件審判請求の予告登録前3年以内に日本国内において、本件商標を請求に係る商品について使用していなかったものといわざるを得ないから、本件商標の登録は、商標法50条の規定により、指定商品中「ボタン類」について取り消すべきものであるとした。

第3原告主張の審決取消事由の要点

1  審決は、使用商標の使用を本件商標の使用ということができない旨、また、本件スナップボタンが、本件審判請求の予告登録前3年以内に、実際に取引されたとの事実を認めるに足りない旨、誤って判断した結果、本件商標の指定商品中「ボタン類」についての登録を取り消すべきものとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

2  取消事由

(1)  審決は、使用商標の構成態様につき、「『B』の欧文字を図案化して、円形スナップボタン表面上に大きく表し、該『B』の縦線の上部より、スナップボタンの円内側に沿って、『BURTON』と『SNOWBOARDS』の各文字を、1字程度の間隔をもって、同書同大に書し、『SNOWBOARDS』中の語末『S』の文字が大きく書された『』Bの縦線の下部に位置するように表してなるものである。」(審決書6頁12~19行)と認定したうえ、使用商標の「円形スナップボタン表面上に表示された上記『B』と『BURTONSNOWBOARDS』は、外観上まとまりよく一体的に表されているものであるから、全体として一つの商標を表したと把握、認識されるばかりでなく、仮に、『BURTONSNOWBOARDS』の文字部分のみをとってみたとしても、該文字は、前記したとおり、同一の書体で同一の大きさで書されているところから、これより『BURTON』の文字部分のみが独立して看取されないと判断するのが相当である。これに対して、本件商標は前記したとおり、『BURTON』の欧文字と『バートン』の片仮名文字を上下2段に書してなるものであるから、両商標は、外観上著しく相違するものであって、その使用は、本件商標の使用ということはできない。」(同6頁20行~7頁14行)と判断した。

上記認定判断のうち、使用商標の構成態様についての認定は認めるが、使用商標の使用が、本件商標の使用ということはできないとの判断は誤りである。

すなわち、使用商標と本件商標の構成態様における差異点の第1は、使用商標においては、「SNOWBOARDS」との文字が付加されている点にあるが、登録商標に他の文字又は図形を付加して使用した場合に、登録商標の使用ではないとすることは、著しく取引の実情に反し、不合理であって、この点は、両商標の外観を著しく相違させるものではなく、使用商標の使用を本件商標の使用と認めることを妨げるものでもない。このことは、平成6年法律第116号による商標法改正に対応した特許庁の商標審査基準(改訂5版2刷)に、平成8年法律第68号による改正前の商標法19条2項2号、20条の2第2号に基づく、存続期間の更新登録出願の際の登録商標の使用証明に関し(この場合における登録商標の使用の認定の判断基準は、不使用に基づく登録取消しの審判請求の際の登録商標の使用の認定にも妥当するものである。)、例として、「NEOVERNASE/ネオベルナーゼ」との構成の商標の使用が登録商標「VERNASE/ベルナーゼ」の使用と認められること等を挙げて、登録商標に他の文字を付加して使用した場合を登録商標の使用と認めるものとしていること(甲第2号証77頁)からも明らかである。

また、使用商標と本件商標の構成態様における差異点の第2は、本件商標が「BURTON」の欧文字と「バートン」の片仮名文字を上下2段に書してなるのに対し、使用商標が「BURTON」の欧文字を1段に書してなる点にあるが、この点も、両商標の外観を著しく相違させるものではなく、使用商標の使用を本件商標の使用と認めることを妨げるものでもない。このことは、上記商標審査基準(改訂5版2刷)に、例として、「太陽」又は「SUN」との構成の商標の使用が登録商標「太陽/SUN」の使用と認められること等を挙げて、登録商標が2段併記等の構成からなる場合に、その上段又は下段の構成の使用を登録商標の使用と認めるものとしていること(甲第2号証76頁)からも明らかである。

したがって、使用商標の使用が本件商標の使用ということはできないとした審決の判断は誤りである。

(2)  審決は、「乙第5号証は、荷送人を『Japan Hardgoods』、倉庫/プラントを『BURTONSNOWBOARDSJAPAN』とし、納品先を『マサ名古屋』、商品名を『SnapButton』とする1996年(平成8年)11月15日付出荷伝票と認められるところ、これに記載された商品『SnapButton』に、本件商標が使用されていたか否かは明らかではない。」(審決書7頁20行~8頁6行)として、本件審判請求の予告登録前3年以内に、被請求人(原告)とマサ名古屋との間で実際に本件スナップボタンの取引がなされたとの事実を認めるに足りる取引書類等の提出がないとしたが、原告とマサ名古屋との間で、本件スナップボタンの取引がなされた事実は、上記審決乙第1号証の1、2の写真のほか、上記審決乙第5号証(本訴甲第8号証添付)によっても証明されている。

この点につき、被告は、納品書や販売店リスト等の資料が提出されておらず、実際にどの程度の商品が製造販売されていたかが明らかではないと主張するが、不使用に基づく登録取消しの審判請求においては、登録商標が取消請求に係る指定商品に使用されていた事実が証明されれば足りるのであり、使用の程度の証明は必要ではない。

第4被告の反論の要点

1  審決の認定・判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

2  取消事由について

(1)  原告は、本件スナップボタンにおける使用商標の使用が、本件商標の使用であると主張するが、表面上に大きく表され図案化された「B」の欧文字と、スナップボタンの円内側に沿って表された同書同大の「BURTONSNOWBOARDS」の欧文字による使用商標は、本件商標と、外観上著しく相違しており、使用商標の使用をもって、本件商標の使用ということはできない。

(2)  原告からは、本件スナップボタンが、一般に広く販売されるだけの数量で製造されていたことを証明するメーカーから販売店への納品書や国内で販売を行っていた販売店リスト等の具体的資料が提出されておらず、実際にどの程度の商品が製造販売されていたかが明らかではない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由について

(1)  本件スナップボタンに表示された使用商標の構成態様が、「『B』の欧文字を図案化して、円形スナップボタン表面上に大きく表し、該『B』の縦線の上部より、スナップボタンの円内側に沿って、『BURTON』と『SNOWBOARDS』の各文字を、1字程度の間隔をもって、同書同大に書し、『SNOWBOARDS』中の語末『S』の文字が大きく書された『B』の縦線の下部に位置するように表してなるものである」(審決書6頁12~19行)ことは、当事者間に争いがなく、具体的には、「審判事件答弁書(第2回)」(甲第7号証)添付の審決乙第1号証の2の写真に示された、別紙のとおりのものであることが認められる。

そして、該使用商標の構成態様は、審決の認定(審決書6頁20行~7頁7行)のとおり、図案化され、スナップボタン表面上に大きく表された「B」の欧文字部分と「BURTONSNOWBOARDS」の文字部分とが、外観上、まとまりよく一体的に表されているものであって、その全体が一つの商標を表したと把握認識されるものと解されるが、仮に、「B」の欧文字部分を考慮せず、「BURTONSNOWBOARDS」の文字部分のみを取り出したとしても、その文字部分が同書、同大にまとまりよく書されているものであるから、「BURTONSNOWBOARDS」の文字部分全体が一つの商標を表したと把握認識されるものと認められる。

しかるところ、使用商標の「BURTONSNOWBOARDS」の文字部分のみを考慮したとしても、その構成は、該「BURTONSNOWBOARDS」の文字部分を、1列に、かつ、その文字列の形状を、各文字の下部が円の中心を向くようにし、「BURTON」の語頭の「B」と「SNOWBOARDS」の語末の「S」の間で、その間隔が概ね円周の6分の1程度となるよう切り欠いた円弧状として表したものであるのに対し、本件商標は、「BURTON」の欧文字と「バートン」の片仮名文字を上下2段に書してなるものであるから、使用商標と本件商標の各構成は、その外観において著しく相違するものといわざるを得ず、使用商標の使用をもって、本件商標の使用に当たるものとは到底認め難い。

原告は、使用商標と本件商標の構成態様の差異を、使用商標において「SNOWBOARDS」との文字が付加されている点及び使用商標が「BURTON」の欧文字を1段に書してなる点にあるとしたうえで、平成6年法律第116号による商標法改正に対応した特許庁の商標審査基準(改訂5版2刷、甲第2号証)の、平成8年法律第68号による改正前の商標法19条2項2号、20条の2第2号に基づく、存続期間の更新登録出願の際の登録商標の使用証明に関する記載事項を援用し、上記いずれの差異点も両商標の外観を著しく相違させるものではなく、使用商標の使用を本件商標の使用と認めることを妨げるものでもないと主張する。

しかして、平成8年法律第68号による改正前の商標法における存続期間の更新登録出願の際の登録商標の使用の認定と、不使用に基づく登録取消しの審判請求の際の登録商標の使用の認定とは、同一の判断基準に従うべきものと解され、また、前示商標審査基準(甲第2号証)には、登録商標に他の文字を付加して使用した場合(同号証77頁)、2段併記等の構成からなる登録商標の上段又は下段の構成を使用した場合(同号証76頁)に、それぞれ登録商標の使用と認められる旨の記載があることが認められるが、商標審査基準の前示各記載が、登録商標に他の文字を付加することと、2段併記等の構成からなる登録商標の上段又は下段の構成を使用することとを同時に併用した使用についても、当然に登録商標の使用と認められるとしているものとは解されないのみならず、使用商標と本件商標の構成態様の差異は、前示認定のとおり、使用商標が、「BURTONSNOWBOARDS」の1列(1段)の文字列の形状を円弧状として表した点等、原告の挙げる2点以外にも存在することが認められるのであるから、原告の該主張は、失当といわざるを得ない。

(2)  そうすると、本件審判請求の予告登録前3年以内に、原告とマサ名古屋との間で実際に本件スナップボタンの取引がなされたとの事実の存否にかかわらず、本件スナップボタンに表示した使用商標の使用をもって本件商標の使用に当たるものとする原告の主張を採用することはできない。

(3)  原告が本訴において提出した甲第3号証の写真3葉と甲第9~11号証の各写真(なお、甲第3号証の各写真は、その綴じた順に従って、順次甲第9~11号証の写真と同一と認められる。)には、使用商標とは異なる構成態様の商標がそれぞれ表示されたボタンが示されているが、甲第9~11号証の「撮影日:平成12年5月25日」との付記に照らして、これらの写真は、同日撮影されたものと認められるところ、本件審判請求の予告登録(平成9年4月9日)前3年以内に、該各ボタンの取引がされていたとの主張立証はなく、したがって、該各ボタンに表示された各商標の使用をもって、本件審判請求の予告登録前3年以内に本件商標の使用がなされていたとの事実を認めることもできない。

2  よって、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらないから、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 長沢幸男)

〈以下省略〉

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